
茶室と露地
04.露地
❙はじめに ~ 露地 ~
「茶室と露地」では、『千家開祖/抛筌斎千宗易(利休)(1522年-1591年)』が生み出した茶の湯の空間美と、その精神性について、全5項目にわたり解説し、茶室と露地の役割や歴史、そしてそこに表現される日本の美意識を詳しくご紹介します。
「露地」では、茶室へと続く庭の役割と、その機能について解説します。
露地は単なる通路ではなく、茶室へ入る前に心を整える場であり、俗世と茶の湯の世界をつなぐ空間です。飛石や蹲踞、植栽などの配置が、訪れる客の心を静め、茶席へ向かう準備を整える役割を果たします。
また、「待合」や「腰掛」といった露地の構成要素についても詳しく見ていきます。
それでは、「露地」について詳しく見ていきましょう。
❙露地 ~ 露地とは? ~
『露地』とは「茶室」に付随する庭のことで「茶室」と分けることなく人間世界から別世界の「茶室」へと導く『道』となり『路地』は「茶室」と一体となり構成されます。
『路地』の字は、もとは家屋と家屋の間の道やお互いの家屋を結ぶ通路を表す『路地』、また『道すがら』という意味の『路次』を用いていたが江戸時代(1603-1868)中期頃より『禅』の意味をもたせ「清めの場」として『露地』の字へと変化したといわれています。
『露地』とは、茶室に付随する庭のことであり、単なる装飾的な空間ではなく、人間世界から別世界である「茶室」へと客人を導く重要な**「道」**の役割を果たします。茶室と分けることなく一体となり、亭主のもてなしの心を表現する場でもあります。
「露地」という言葉の由来については、もともと**「路地」の字が使われていました。この「路地」は、家屋と家屋の間にある通路や、建物をつなぐ道を指していました。また、「道すがら」「通路」といった意味を持つ「路次」という表現も見られました。しかし、江戸時代(1603年〜1868年)の中期頃になると、茶道において露地が単なる通路ではなく、「清めの場」としての意味を持つようになり、禅の思想とも結びつきながら、次第に「露地」**という表記が定着していったといわれています。
露地には飛石や蹲踞(つくばい)、腰掛待合、植栽などが巧みに配置され、客人が茶室へと向かうまでの間に心を静め、日常の喧騒から離れて茶の湯の世界へと入るための準備を整える場となります。亭主はこの空間を通じて、客人に対するもてなしの心を示し、露地全体が「一期一会」の精神を象徴する空間として機能するのです。
露地は茶室と一体となることで、その役割をより深め、茶の湯の世界観を体現する重要な構成要素となっています。
❙露地 ~ 形式 ~
『露地』の形式の中でもっとも代表的なものは『[大名/利休七哲]織部流開祖/古田重然(織部) (1544-1615)』によって考案された「内露地」と「外露地」からなる『二重露地』の形式があげられます。
他に「内露地」「外露地」の区別のない『一重路地』や「内露地」「外露地」の間に「中露地」を設ける『三重露地』などがあります。
※『千家開祖/抛筌斎千宗易(利休)(1522-1591)』の頃は「露地口」の脇に「板縁」か「簀子縁」が設けられ「露地草履」に履きかえる場を「腰掛待合」とし「外露地」と「内露地」の区別がない『一重露地』だったという。
露地にはいくつかの形式があり、特に代表的なものとして 「二重露地」 があります。これは、『[大名/利休七哲] 織部流開祖 / 古田重然 (織部) (1544年-1615年)』 によって考案されたもので、「内露地」と「外露地」の二つの空間に分かれています。これにより、客人は茶室へと向かう過程で心を整え、より深く茶の湯の世界へと入り込むことができます。
また、その他の露地の形式として、以下のようなものがあります。
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一重露地(いちじゅうろじ)
「内露地」と「外露地」の区別がなく、一続きの露地として構成される形式です。
※『千家開祖/抛筌斎千宗易(利休)(1522年-1591年)』の頃には、一般的に「一重露地」が採用されており、「露地口」の脇に「板縁」または「簀子縁」を設け、そこで「露地草履」に履き替えて入るようになっていました。この際、「腰掛待合」が用いられ、客人が亭主を待つ空間として機能していました。 -
『千家開祖/抛筌斎千宗易(利休)』の時代には、**「外露地」と「内露地」の区別がなく、露地の入口にあたる「露地口」の脇に「板縁」や「簀子縁」が設けられ、客人はここで「露地草履」に履き替えた後、そのまま茶室へと向かう形式でした。このように外露地と内露地の区別がない露地を「一重露地」**と呼びます。
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二重露地(にじゅうろじ)
「内露地」と「外露地」の二つの空間に分かれた形式。客人は「外露地」で心を整え、「中潜り」を通って「内露地」に進むことで、より深い精神性へと導かれます。「二重露地」とは、露地を**「外露地」と「内露地」**の二つに分けた形式で、内外の境に「中門」や「腰掛待合」を設けます。「外露地」は待合の場としての役割を果たし、茶室へと入る前の心の準備を整える場所、「内露地」は茶室とより密接に関わる空間として構成されます。二重露地の考案者は『[大名/利休七哲]織部流開祖/古田重然(織部)』とされており、茶事の流れをより整えるための工夫がなされています。 -
三重露地(さんじゅうろじ)
「内露地」と「外露地」の間に「中露地」を設けた形式です。より段階的な心の整えが求められ、格式の高い茶席などで見られることがあります。「二重露地」の「内露地」と「外露地」の間に**「中露地」**を設けた形式です。「中露地」は、待合のための空間としての役割をより強調し、露地の構成に一層の奥行きを持たせるものとなっています。
いずれの形式も、単なる庭ではなく、客人の心を静め、日常の世界から茶の湯の世界へと移行するための「道」としての役割を持っています。それぞれの形式が持つ意図を理解することで、茶の湯の深い精神性をより感じ取ることができるでしょう。
❙露地 ~ 構成 ~
露地は、茶室へ至るまでの「道」として機能し、日常から離れた別世界へと客人を導く空間です。そのため、単なる庭ではなく、もてなしの心や茶の湯の精神を反映した特別な場として、さまざまな要素が点在しています。以下に、露地を構成する主な要素を解説します。
❙露地口❙
『露地口』とは『露地』の入り口のことをいう。
古くは「茶室」は「三居の躰」「市中の隠」と評され、日常世界から離れた別世界の境地とされていました。
『露地口』はそんな日常世界の出口であり別世界の入口ともされている。
一般的なものに『露地』の周囲に塀をめぐらせ門を付して引き戸を建てることが多いが、『露地門』を設えることもあります。
露地口とは、露地の入り口を指します。
かつて茶室は「三居の躰」「市中の隠」と称され、日常世界から隔絶された特別な場とされていました。そのため、露地口は日常世界の出口であり、茶の湯の精神世界へと入る入口と考えられています。
一般的には、露地の周囲に塀を巡らせ、門や引き戸を設けますが、「露地門」を構える場合もあります。
❙腰掛待合❙
『腰掛待合』とは客人が亭主の迎付けの際や懐石の後に一旦『茶室』を出る「中立」の際に腰を掛けて待機する場所をいいます。
また「内露地」「外露地」ともに『腰掛待合』がある場合、「内露地」にある場合は『内腰掛』、「外露地」にある場合は『外腰掛』と呼びます
座る場所は茶席に近い方から正客より順に座ります。
また『腰掛待合』の下座側の柱には「棕櫚帚」を掛けます。
客人が亭主の迎え付けを待つ場所であり、懐石後に一時的に茶室を退出する「中立(なかだち)」の際にも腰を掛けて待機する場所です。
「二重露地」の場合、内露地に設けられるものを「内腰掛」、外露地に設けられるものを「外腰掛」と呼びます。
座る場所は茶席に近い方から順に、正客(しょうきゃく)から座るのが習わしです。また、腰掛待合の下座側の柱には「棕櫚箒(しゅろほうき)」が掛けられています。
❙棕櫚箒❙
『棕櫚帚』とは青竹の柄に「棕櫚」の葉を巻いた箒をいい、「腰掛待合」や「雪隠」「塵穴」などの周辺に『飾箒』として用います。
流派により寸法などが異なり「表千家」では穂先を切り揃えるが「裏千家」では自然のまま用います。
本来は亭主自ら茶事の都度に作り客人を迎える心構えとしていました。
棕櫚の葉を巻いた箒で、腰掛待合や雪隠、塵穴の周辺に「飾箒」として用います。
流派によって違いがあり、「表千家」では穂先を切り揃え、「裏千家」では自然のまま用います。本来、亭主自らが茶事ごとに新しく作り、客人を迎える心構えを示していました。
❙雪隠❙
『雪隠』とは「露地」内の『腰掛待合』の近くに設けられた「便所」をいう。
『雪隠』には二種あり「外露地」にある『下腹雪隠』、「内露地」にある『砂雪隠』があります。
『砂雪隠』には投石と砂が清めて詰められ、「塵穴」があれば一、二枚の青葉を挿し「塵箸」を添えます
『砂雪隠』はあくまで客人への心くばりであり実際に用いることはない。
露地内に設けられた便所のことを指します。腰掛待合の近くに設置されることが多く、「外露地」にあるものを「下腹雪隠」、「内露地」にあるものを「砂雪隠」といいます。
砂雪隠の内部には投石と清めの砂が詰められ、塵穴がある場合は、青葉を一、二枚挿し、塵箸を添えます。なお、砂雪隠は客人に対する心遣いの一環として設けられたものであり、実際に使用することはありません。
❙中門❙
『二重露地』『三重露地』にて『外露地』と『内露地』を仕切るための門。
「二重露地」または「三重露地」において、外露地と内露地を仕切るために設けられる門です。
❙石燈籠❙
『石燈籠』とは夜会などにおいて「蹲踞」をはじめ「露地」全体を照らし彩りをもたらす照明として用いる燈籠です。
また「露地」の景観との一つとしての役割も併せ持ちます。
元来は仏教と共に伝来したもので「献灯」と称し、社寺にて多く設置されていたものをその後「露地」で用いるようになったとされています。
形や寸法に特に決まりはなく現存するさ『石燈籠』にはさまざまな形が見られます。
夜咄(よばなし)の茶事などにおいて、蹲踞(つくばい)や露地全体を照らす役割を持つ燈籠です。
また、露地の景観の一部として、庭の趣を高める要素にもなっています。もともとは仏教とともに伝来し、「献灯」として社寺に設置されていたものが、後に露地にも取り入れられるようになりました。
特に決まった形や寸法はなく、現存する石燈籠にはさまざまな様式が見られます。
❙雪井筒隠❙
『井筒』とは井戸の地上部分に設けた円筒状あるいは方形の囲みをいいます。
また『井筒』の上には竹の簀子をかぶせその上に銅の釣瓶を置きます。
「露地」の植栽への水やりなどの実用性以外にも「露地」を彩る景観としての役割も併せ持ちます。
井戸の地上部分に設けられた円筒状または方形の囲いを指します。
井筒の上には竹の簀子(すのこ)をかぶせ、その上に銅製の釣瓶(つるべ)を置くことが一般的です。植栽への水やりといった実用性のほか、露地の景観を彩る要素としての役割も持ちます。
❙蹲踞❙
『蹲踞』とは『茶室』の近くに設けられ、席入り前に手や口を清めるための「手水鉢」を中心に配された「役石」や「石燈籠」も含めた全体を『蹲踞』という。
「手水鉢」にて手水を使用する際に乗る「前石」を中心に左右に「手燭」を用いる際に「手燭」を置く「手燭石」、「湯桶」を用いる際に「湯桶」を置く「湯桶石(桶石)」を配置します。※流派により左右が異なります。
また「手水鉢」周辺の水が落ちる場所を「海」と称し、その「海」には「ゴロタ石」を敷き詰め「泡消石」として「丸瓦」を置きます。
また夜会用の照明として「石燈籠」が設置されています。
茶室の近くに設けられ、客人が茶室に入る前に手や口を清めるための「手水鉢」を中心に配された空間です。
蹲踞は単なる手水場ではなく、「手水鉢」を中心に、以下のような役石(やくいし)が配置されます。
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前石(まえいし) … 手水を使う際に乗る石
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手燭石(てしょくいし) … 手燭(てしょく)を置く石
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湯桶石(ゆとういし) … 湯桶(ゆとう)を置く石(※流派により左右が異なる)
また、水が落ちる部分には「海」と称されるゴロタ石を敷き、泡を消すために「丸瓦(まるがわら)」を置くことがあります。さらに、夜会(夜咄)の際には、石燈籠が設置されることが一般的です。
❙刀掛け❙
『刀掛』とは「茶室」に「躙口」が創案された際に同時に創案されたもので茶室内は「無刀平等」の精神から『茶室』の「躙口」の脇に設けられた「刀」を掛ける棚をいいます。
また『刀掛』の下には刀を掛ける際に乗る「刀掛石」が設置されており、やがて江戸時代(1603-1868)中期頃より二段の「刀掛石」を用いるようになりました。
しかし『刀掛』は今日では『意匠』として設けられることが多くなっています。
躙口(にじりぐち)が創案された際に同時に設けられたもので、茶室内は「無刀平等」の精神から、茶室の躙口の脇に設けられた棚に刀を掛けるものです。
刀掛の下には刀を掛ける際に乗る「刀掛石」が設けられ、江戸時代中期頃より、二段の刀掛石が用いられるようになりました。
今日では、実際の用途よりも意匠として設けられることが多くなっています。
❙塵穴❙
『塵穴』とは露地内の「枯れ枝」や「落葉」「塵」などを拾って入れて置くために設けられた穴であるが客人が席入りの前に己の最後の心の塵を落とすべく『塵穴』を拝見して席入りをおこなう。
『塵穴』は広間の茶室では「角型」小間の茶席では「丸型」を用い『塵穴』の中には「覗石」が置かれ青竹の「塵箸」を添えて青葉を一、二枚挿しておきます。
また『塵穴』付近には内露地用の「蕨帚」を吊り下げます。
露地内に設けられた、枯れ枝や落葉、塵などを拾って入れておくための穴のことを指します。
しかし、本来の意味としては、席入りの前に己の心の塵を落とすための場とされ、客人は塵穴を拝見してから茶室へと向かいます。
塵穴の形状は、広間の茶室では「角型」、小間の茶席では「丸型」が一般的です。塵穴の中には「覗石(のぞきいし)」が置かれ、青竹の「塵箸(ちりばし)」を添え、青葉を一、二枚挿しておくことが習わしとされています。
また、塵穴の付近には、内露地用の「蕨箒(わらびぼうき)」が吊るされることもあります。
露地は、単なる庭ではなく、茶の湯の精神性を高めるための重要な空間です。客人は露地の各要素を通りながら、日常から切り離され、茶室という特別な場へと心を整えていきます。それぞれの要素が持つ意味を理解することで、茶の湯の奥深い世界をより感じることができるでしょう。
❙露地 ~ 道具 ~
-露地には、客人をもてなし、茶の湯の精神を表現するためにさまざまな道具が配置されています。これらの道具は単なる実用品ではなく、茶事の流れや露地の景観を整え、もてなしの心を具現化する役割を果たします。以下に、代表的な露地道具を紹介します。
❙棕櫚帚❙
『棕櫚帚』とは青竹の柄に「棕櫚」の葉を巻いた箒をいい、「腰掛待合」や「雪隠」「塵穴」などの周辺に『飾箒』として用います。
流派により寸法などが異なり「表千家」では穂先を切り揃えるが「裏千家」では自然のまま用います。
本来は亭主自ら茶事の都度に作り客人を迎える心構えとしていました。
棕櫚帚とは、青竹の柄に棕櫚(しゅろ)の葉を巻いた箒(ほうき)のことを指し、「腰掛待合」や「雪隠(せっちん)」「塵穴(ちりあな)」の周辺に飾箒(かざりぼうき)として用いられます。
流派によって形状に違いがあり、
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表千家 … 穂先を切り揃える
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裏千家 … 自然のまま用いる
もともとは、亭主自らが茶事のたびに新しく作り、客人を迎える心構えを示すものとされていました。
❙蕨帚❙
蕨帚とは、内露地の掃除に用いられる小さな箒で、一般的には露地の「塵穴」や「蹲踞(つくばい)」の周辺を清掃するために使用されます。
竹の枝を細かく割ったものや、蕨の茎を束ねたものを使い、特に細かい砂利や落ち葉を掃くのに適しています。
❙塵箸❙
塵箸とは、露地内の「塵穴」の横に添えられる青竹の箸で、枯れ葉や小さなゴミを拾い、塵穴に入れるための道具です。
客人は席入りの前に「塵穴」を拝見し、心の塵を落とす意味を込めて使用することがあります。
塵穴には青葉を一、二枚挿し、塵箸とともに清らかな雰囲気を演出します。
❙塵取❙
塵取とは、露地の清掃時に塵や落ち葉を集めるための道具です。
竹や木製のものが用いられ、露地の景観を損なわないよう、自然素材で作られることが多くなっています。
❙蹲踞柄杓❙
蹲踞柄杓とは、「蹲踞(つくばい)」で手水を使う際に用いる柄杓のことです。
蹲踞の手水鉢に添えられ、客人が席入り前に手や口を清めるために使用されます。竹製のものが一般的で、流派によって柄杓の形状や長さに違いがあります。
❙露地傘❙
露地傘とは、雨天時に客人が濡れないようにするために用いられる傘で、茶事の際に亭主が客人のために準備します。
竹の骨組みに和紙や油紙を貼ったものが主流で、意匠を凝らしたものも多く、露地の景観の一部としても機能します。
❙ 草履(ぞうり)
草履とは、露地内で客人が履く履物の一つであり、通常は藁や竹皮で作られたものが用いられます。
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男性用 … 少し幅広で、太めの鼻緒がついている
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女性用 … 華奢な作りで、細めの鼻緒が特徴的
客人は露地口で持参した履物を脱ぎ、亭主が用意した草履に履き替えて露地に入ります。
❙ 下駄(げた)
下駄は、草履と同じく露地で用いる履物ですが、特に雨天時や冬季に使用されることが多いものです。
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一枚歯下駄 … 平坦な場所で用いられる
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二枚歯下駄 … 砂利敷きやぬかるんだ露地でも歩きやすい
雪の日には「雪駄(せった)」を用いることもあります。
❙ 雪駄(せった)
雪駄とは、草履の一種で、裏に革を貼ることで滑りにくく、雨の日や冬場に使用される履物です。
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一般的な雪駄 … 草履よりも底がしっかりしており、耐久性がある
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高級な雪駄 … 畳表を使用し、上品な見た目に仕上げられている
茶席では、草履や下駄と使い分け、天候や露地の状況に応じて用いられます。
露地道具は、単に茶事の進行を補助するものではなく、亭主のもてなしの心を表現し、茶の湯の精神を具現化するための大切な役割を担っています。道具一つひとつに意味があり、茶の湯の奥深い世界を感じることができる要素となっています。
❙露地 ~ 中門 ~
『中門』とは「外露地」と「内露地」がある「二重露地」において「外露地」と「内露地」を仕切る門をいいます。また「三重露地」の場合は「外露地」「中路地」「内露地」を仕切るために二枚の『中門』が必要となります。
下記に紹介します『中門』は外につながる「外露地門」や「庭門」に比べ簡易な作りの戸となります。
『中門』とは、「外露地」と「内露地」を持つ二重露地において、両者を仕切る門のことを指します。さらに「三重露地」の場合は、「外露地」「中露地」「内露地」を区切るため、二つの『中門』が設けられることになります。
外露地門や庭門に比べ、簡素な造りであることが特徴であり、竹や木を使った素朴な意匠が多く見られます。以下に、代表的な『中門』の形式をご紹介します。
❙枝折戸❙
『枝折戸』とは『中門』の中でもっとも多く用いられる形で青竹を折り曲げて「枠框」としこれに割竹を両面から菱目に組んだものを蕨縄で結んでいます。
『枝折戸』は、中門の中でも最も多く用いられる形式で、青竹を曲げて枠框を作り、これに割竹を両面から菱目に組んで蕨縄で結んだものです。
素朴ながらも優雅な趣があり、風通しも良く、軽やかでありながら機能的な門となっています。
❙猿戸❙
『猿戸』とは一般的な「木の板戸」をいい、框のついた板戸で片木板を横張りにし用います。『猿戸』の『猿』とは框に取付け柱などの穴に木片を突き刺す鍵のことを指します。また木片ではなく「掛け金」を用いる場合は『角戸』と称します。
『猿戸』は、一般的な木製の板戸であり、框のついた板戸を片木板で横張りにして使用します。
また、『猿戸』の『猿』とは、框に取り付けられた木片の鍵を指し、これを柱などの穴に突き刺して簡易な施錠として機能させます。
※ 木片の代わりに「掛け金」を使用する場合は、『角戸(かくど)』と呼ばれます。
❙中潜❙
『中潜り』とは屋根のついた「隔壁」で地面より膝の高さほどに「潜り戸」をつけ敷居をまたいで潜る門となります。
『中潜』は、屋根付きの「隔壁」に設けられた門で、地面から膝の高さ程度の位置に潜り戸を設け、敷居をまたぐようにして潜る形式の門です。
格式のある茶庭に見られ、趣のある造りとなっています。
❙揚簀戸❙
『揚簀戸』とは一つの「露地」に二つの「茶席」がある場合に多く用いられる門で他に『半蔀』『撥木戸』『撥簀戸』などとも称されます。
二本の丸太柱の上に楣を取付けて丸太を枠として割竹を籠目や菱目に編んだ簀戸を吊り、突上竹でそれを押し上げて通ります。
『揚簀戸』は、一つの露地に二つの茶席がある場合に多く用いられる門で、別名『半蔀(はじとみ)』『撥木戸(ばちきど)』『撥簀戸(ばちすど)』とも呼ばれます。
二本の丸太柱の上に楣(まぐさ)を取り付け、丸太を枠とした割竹を籠目や菱目に編んだ簀戸を吊り、突上竹で押し上げて通る仕組みになっています。
❙梅軒門❙
『梅軒門』とは『表千家/残月亭』にある『中門』で「杉皮葺」や「藁葺」の切妻屋根で檜の堀立柱に両開の簀戸が付いています。
また門の両脇には『表千家五代/随流斎良休宗左(1650-1691)』好みの『随流垣』という細い横木に細い竹を張り付けた垣が付きます。
『梅軒門』は、表千家・残月亭の中門として知られる門で、切妻屋根を「杉皮葺」や「藁葺」で仕上げ、檜の堀立柱に両開きの簀戸を備えた形式です。
また、門の両脇には、**表千家五代・随流斎良休宗左(1650-1691)**が好んだ『随流垣(ずいりゅうがき)』が設けられています。随流垣とは、細い横木に細い竹を張り付けた風情ある垣根のことを指します。
❙竹葺門❙
『竹葺門』とは割竹を屋根にした『中門』で『裏千家十一代/玄々斎精中宗室(1810-1877)』の好みとなります
『竹葺門』は、屋根に割竹を葺いた中門で、**裏千家十一代・玄々斎精中宗室(1810-1877)**の好みとされています。
竹の素朴な風合いを活かしながら、風格ある佇まいを持つ門です。
❙編笠門❙
『編笠門』とは「柿葺」の屋根の門で「柿葺」の曲線が編笠に似ているのでこの名がある。
『編笠門』は、柿葺(こけらぶき)の屋根を持つ門で、柿葺の曲線が「編笠」に似ていることからこの名がつきました。
繊細な美しさと、しっとりとした雰囲気を兼ね備えた門となっています。
❙萱門❙
『萱門』とは「茅葺門」の総称で屋根は切妻・寄棟・入母屋とする。
格式は高く「露地門」として用いる場合もある
『萱門』は、「茅葺(かやぶき)」の屋根を持つ門の総称で、切妻・寄棟・入母屋などの屋根形式が用いられます。
格式が高く、露地門としても使用されることがあり、茶庭の景観を引き締める重要な要素となります。
『中門』は、茶庭において「外露地」と「内露地」を区切るだけでなく、客人の心を整え、茶席への期待感を高める役割を持ちます。
門の形式によって趣が異なり、それぞれが持つ風情と機能を理解することで、茶室と露地の奥深い世界をより深く味わうことができます。
❙露地 ~ 石 ~
露地における**「役石」**とは、単なる庭石ではなく、露地の機能や茶の湯の流れを整えるために設けられた重要な構成要素です。客人の動線を誘導し、立ち位置を明確にし、心を整える役割を果たします。役石の配置は、亭主のもてなしの心を表現するとともに、茶の湯の精神を反映したものでもあります。
露地に配置される代表的な役石を以下に紹介します。
❙ 露地の代表的な役石
❙ 蹲踞(つくばい)
蹲踞とは、席入り前に手や口を清めるための手水鉢を中心に、周囲の役石や石燈籠を配したものです。
「手水鉢」の周囲には、次のような役石が配置されます。
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前石(まえいし) … 手水鉢の前に据えられ、客人が手水を使う際に立つ位置を示す。
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手燭石(てしょくいし) … 夜の茶事で手燭を置くための石。
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湯桶石(ゆとういし) … 湯桶を置くための石で、手燭石の反対側に配置される。
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海(うみ) … 水が滴る部分のこと。砂利や「ゴロタ石」を敷き詰め、石燈籠や「泡消石」として「丸瓦」を置くこともある。
❙ 延段(のべだん)
延段とは、露地内の歩行経路を示すために敷かれる石畳のことです。
平坦で歩きやすい石を並べ、蹲踞や茶室への動線を美しく整えます。特に玄関や腰掛待合の周囲に多く用いられます。
❙ 飛石(とびいし)
飛石とは、露地の中を歩くために一定の間隔で配置された石です。
飛石の幅や間隔は、歩幅に合わせて設けられ、客人が歩きやすくなるように工夫されています。
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連続飛石 … 歩く流れをスムーズにするための飛石。
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点在飛石 … 一歩ずつ歩幅を意識させる配置の飛石。
❙ 迎付石(むかえつけいし)
迎付石とは、客人が亭主の迎えを待つ場所に置かれる石のことを指します。
腰掛待合の前や、茶室への入り口近くに設けられることが多く、客人の立ち位置を示します。
❙ 蹲踞石組(つくばいいしぐみ)
蹲踞の周囲に配置された石組で、蹲踞を構成する重要な要素です。
手水鉢を中心に、前石・手燭石・湯桶石などが適切に配置され、客人が自然に手を清める所作ができるよう工夫されています。
❙ 切石(きりいし)
切石とは、平たく整えられた石で、主に茶室の出入口や露地の重要なポイントに設けられます。
茶室へ上がる際の「上がり框」としても使用されることがあります。
❙ 刀掛石(かたなかけいし)
刀掛石とは、茶室の躙口(にじりぐち)の脇に設けられる石で、客人が刀を外して掛ける場所として用いられます。
茶室では「無刀平等」の精神が大切にされており、刀掛石はその象徴とも言えます。
❙ 塵穴石(ちりあないし)
塵穴石とは、塵穴のそばに配置される石で、客人がここで心の塵を落とし、席入りの準備をすることを示唆するものです。
露地の掃除道具として設けられる「棕櫚箒(しゅろぼうき)」や「塵箸(ちりばし)」とともに配置されることが多いです。
❙止め石❙
❙関守石❙
❙踏み石❙
❙落石❙
役石は、単なる装飾ではなく、露地の機能を高め、客人の動線を整え、心の準備を促す重要な要素です。それぞれの石には意味があり、亭主の心遣いや茶の湯の精神が反映されています。露地を歩く際には、これらの役石の配置に目を向け、その意図を感じながら歩を進めることが大切です。