
茶室と露地
02.茶室の構成
❙はじめに ~ 茶室の構成 ~
「茶室と露地」では、『千家開祖/抛筌斎千宗易(利休)(1522年-1591年)』が生み出した茶の湯の空間美と、その精神性について、全5項目にわたり解説し、茶室と露地の役割や歴史、そしてそこに表現される日本の美意識を詳しくご紹介します。
「茶室の構成」では、茶室の空間を形作る要素について詳しく解説します。
茶室は単なる小さな部屋ではなく、そこに配置される柱や床の間、にじり口や障子など、あらゆる要素が調和し、茶の湯の理念を具現化するものとなっています。また、茶の湯における「もてなしの心」を表現するために、空間の細部にまで工夫が凝らされています。
茶室を構成する各要素の特徴と、それが生み出す空間美について詳しく見ていきましょう。
それでは、「茶室の構成」について詳しく見ていきましょう。
❙茶室の構成 ~ 茶室の構成 ~
茶室とは、茶の湯を行うために設計された特別な空間であり、単なる建築物ではなく、亭主と客人の交流の場としての意味を持ちます。そのため、その構成は、茶道の理念に基づき、機能性と美意識を融合させたものとなっています。
一般的に、茶室は「広間」と「小間」に大別され、それぞれの用途や格式に応じた設えがなされます。広間は四畳半以上の比較的大きな茶室で、格式のある茶会や公式の席に用いられます。一方、小間は四畳半以下の小規模な茶室で、より親密でわび茶の精神に即した空間となっています。
茶室の基本的な構成としては、客人を迎え入れる「客座」と、亭主が点前を行う「点前座」があり、それらを結ぶ動線が意識的に計算されています。
茶の湯の精神を体現する要素として、床の間やにじり口、茶道口、給仕口などが設けられ、それぞれに意味を持たせています。
また、茶室は単なる空間の配置ではなく、亭主のもてなしの心や茶道における所作の美しさを際立たせるように設計されています。炉の位置、天井、屋根、窓、柱など、すべてが一体となり、亭主と客人が「一期一会」のひとときを共有するための場を創り出します。
そのため、茶室の各要素が調和し、茶会が一つの流れるような物語となるように工夫されています。
❙茶室の構成 ~ 畳 ~
畳は、日本の伝統的な床材であり、奈良時代から使用されてきました。当初は貴族の寝具として使われ、平安時代には座具や敷物としての用途が広がりました。
室町時代以降、武家や寺院において畳の敷き詰めが一般的になり、格式を示す要素となりました。茶道が発展するにつれ、畳の大きさや敷き方が重要視されるようになり、現在の茶室文化に深く根付いています。
茶室において畳は、単なる床材ではなく、亭主と客人の座る位置、点前の所作、茶席の格式などを決定する重要な要素です。畳の大きさや敷き方には厳格な決まりがあり、それぞれの役割が明確に定められています。
本項では、畳の規格・用途・名称についてご紹介します。
❙畳の規格❙
畳の寸法には地域ごとの違いがあり、代表的な規格については以下の三つが上げられます。
[京間(本間)]
▶955mm×1910mm(約1.82m²)
▶京都を中心とした関西圏や西日本で使用される畳で、日本で最も大きな規格です。「関西間」「本間間」とも呼ばれます。このサイズは「一間(6尺3寸)」を基準としており、広々とした空間を生み出すのが特徴で京町家や伝統的な茶室にも多く用いられています。
[中京間(三六間)]
▶910mm×1820mm(約1.66m²)
▶名古屋を中心とする中京地方ので使用される畳の規格で、京間と江戸間の中間的なサイズになります。「三六間」という名称は、畳の縦横比が2:1であることに由来しています。京間よりもコンパクトながら、江戸間よりも広く、バランスの取れたサイズ感が特徴です。
[江戸間]
▶880mm×1760mm(約1.55m²)
▶「江戸間」は、東京を中心とする関東地方で広く使われている畳の規格で、日本の標準的なサイズとされています。京間と比べるとやや小さめですが、これは江戸時代の住宅事情や生活様式に適していたためと考えられています。今日では、新築住宅や賃貸物件などでも広く採用される最も一般的な畳サイズです。
❙畳の用途❙
茶室で用いられる畳の代表的な用途には、以下の3種類があり、それぞれの特徴に応じて用途が異なります。
[丸畳]
▶一畳分の標準的な大きさを持ち、茶室では点前畳や客畳として使用されます。これは、茶室における基本の畳の形であり、亭主が点前を行う場所や、客が座る場所として用いられることが一般的です。
[半畳]
▶丸畳の半分のサイズであり、四畳半の茶室では中央に敷かれ、その中に炉を切ることが多いのが特徴です。半畳を中央に配することで、炉の位置が適切に保たれ、茶室全体の調和を生み出します。
[台目畳]
▶畳の四分の三の大きさを持ち、茶室の空間構成に変化を与えるために用いられます。特に千利休が考案した「一畳台目」という極小茶室では、亭主が点前を行うための畳として用いられ、その独特な寸法が茶室の雰囲気や茶の湯の趣を演出する役割を果たしています。
❙畳の名称❙
茶室内においては畳の敷き方も決められており、その敷く場所によって下記の通り名称と役割が決められています。
代表的な畳の敷き方については以下があげられます。
[踏込畳]
▶茶道口から茶室に入った際に最初に踏み込む畳を指します。亭主が茶室に入る際に最初に足を踏み入れる場所であることからこの名称がつきました。
[点前畳]
▶亭主が点前を行う畳で、別名「道具畳」や「亭主畳」とも呼ばれます。大きさは丸畳または台目畳が用いられ、亭主の所作に適した配置が施されます。
[客畳]
▶客人が座る畳のことを指します。四畳半の茶室では通常、一畳分が客畳として用意されますが、二畳や三畳などの小間では「踏込畳」や「貴人畳」と兼用されることが多くなります。
[貴人畳]
▶床の間の前に敷かれる畳で、「床前畳」とも呼ばれます。特に身分の高い客が座る場所とされており、通常は遠慮して座らないのが習わしとされています。
[通畳]
▶踏込畳と客畳の間に敷かれる畳で、亭主や客人が通るための畳を指します。通常、人が座ることはなく、四畳半の茶室では踏込畳が通畳の役割を兼ねることもあります。
[炉畳]
▶炉が切られている畳のことを指します。四畳半の茶室では中央の半畳が炉畳となり、冬の季節に炉を開けることで茶席に温かみをもたらします。
茶室の畳は単なる床材ではなく、亭主や客の動線を考慮した配置が施され、茶の湯の精神を具現化する要素の一つとなっています。
畳の敷き方や種類を知ることで、茶室の設計に込められた意味や亭主のもてなしの心をより深く理解することができます。
❙茶室の構成 ~ 炉 ~
茶室における「炉」は、茶を点てるために湯を沸かす重要な設備であり、その配置や切り方によって亭主の所作や茶席の趣が大きく異なります。炉の切り方には「入炉(向炉・隅炉)」と「出炉(四畳半切・台目切)」があり、それぞれに 本勝手・逆勝手 の形式があるため、組み合わせると8通りの配置が考えられます。これを 「八炉の法」 といいます。
本項では、炉の基本的な構成と切り方について解説します。
❙入炉❙
入炉とは、亭主が座る 点前畳の内部に炉を切る方式です。点前畳内に炉が配置されるため、手元で直接火を扱うことができ、操作性が良いのが特徴です。
[向炉]
▶炉を客畳側に寄せて切る形式で、客人が炉の火をよく見える位置にあります。炉の存在が客の目に入ることで、亭主の所作がより強調されます。
[隅炉]
▶向炉を左側に移動させ、畳の隅に切る形式です。『千家開祖/抛筌斎千宗易(利休)』が国宝茶室「待庵」で初めて試みたとされ、点前座の端に炉を配置することで空間をよりすっきりと見せる効果があります。
❙出炉❙
出炉とは、点前畳の外側 に炉を切る方式で、外に炉が切ってあることから「出炉」と呼ばれます。入炉に比べて炉が遠くなり、亭主の所作や席の雰囲気に変化をもたらします。出炉には、以下の「四畳半切」と「台目切」があります。
[四畳半切]
▶「広間切」とも呼ばれ、最も一般的な炉の切り方です。炉の位置は点前畳の長辺を二等分した位置から下座側に切られ、格式のある茶会などでよく用いられます。
[台目切]
▶炉の位置は点前畳の長辺を二等分した位置から上座側に切られます。点前畳が通常の一畳ではなく 台目畳(四分の三畳) の場合と、通常の丸畳の場合で切られる位置が異なります。丸畳の場合は 「上台目切(あげだいめぎり)」 または 「上切(あげきり)」 と呼ばれます。
❙勝手❙
「勝手」とは、亭主の利き手(主に右手)に基づいて茶室の構造を決定する考え方です。茶室では、書院造とは逆に右から採光する床の間を「本勝手」とするのが一般的です。
[本勝手]
▶亭主が点前座に座ったとき 右側に客が着座する配置を指します。右手で茶を点てやすい構造になっており、通常の茶室は本勝手を基本としています。「右勝手」「順勝手」とも呼ばれます。
[逆勝手]
▶亭主が点前座に座ったとき 左側に客が着座する配置を指します。「左勝手」「左構」とも呼ばれ、通常の本勝手とは異なる所作が求められるため、流派によっては特殊な点前が行われることもあります。
❙その他(大炉)❙
極寒の二月に限り行われる大炉点前にて用いる炉の切り方です。
[大炉]
▶通常の炉(一尺四寸)よりも大きく、一尺八寸四方に切られる炉で『裏千家十一世/玄々斎(1810年-1877年) 』が北国の寒冷地での使用を考慮し、囲炉裏の発想から考案しました。「大炉は一尺八寸四方四畳半左切が本法なり。 但し、六畳の席よろし」とさし、一尺八寸四方で逆勝手に切り、逆勝手での点前があります。
❙その他(水屋)❙
茶室に付随する水屋においては以下のような炉があります。
[長炉]
▶長方形に切られた炉で、水屋などの作業場に設けられることが多く、一度に多くの湯を沸かせるように工夫されています。長時間の湯の使用を前提とした設計であり、茶会や点前の準備を効率よく進めるために活用されます。
[丸炉]
▶円形の鉄炉 で、水屋の控え釜などに用いられることが多く、湯の温度を一定に保ちやすい特徴があります。小規模な点前や補助的な湯の確保に適しており、主に水屋で使用されます。
茶室の炉は、単に湯を沸かすための設備ではなく、亭主の所作や客との関係性を考慮して計算された配置となっています。炉の位置や切り方によって、亭主の動きや茶席の雰囲気が大きく変わり、茶の湯のもてなしの精神を象徴する重要な要素となります。
炉の位置や形状を観察することで、亭主がどのような思いで客を迎えているのか、茶室の意図をより深く感じ取ることができるでしょう。
❙茶室の構成 ~ 天井 ~
茶室の天井は、単なる屋根ではなく、空間の印象を大きく左右する要素の一つです。狭い空間の中でいかに変化を持たせ、広がりを感じさせるかが工夫されており、天井の高さや形状によって亭主と客人の座る位置や空間の格式が表現されます。
茶室の天井にはさまざまな種類があり、それぞれ特有の意味や役割が込められています。以下に代表的な天井形式を紹介します。
[平天井]
▶最も一般的な形式で、天井面が水平に仕上げられたもの。シンプルながら、素材や仕上げ方によって趣が異なり、茶室の格式や空間の雰囲気を決定づける要素となる。
[落天井(下り天井)]
▶平天井を二段造りにし、一部を低くした天井のことを指します。点前座の天井を低くし、客座よりも控えめな位置に配置することで、亭主のへりくだった心を表現しています。
[掛込天井]
▶平天井と化粧屋根裏を組み合わせた天井形式で、点前座や給仕口などの一部の天井を低くし、客座とは対照的な空間を作り出し、空間の奥行を演出させます。
[舟底天井]
▶天井が舟の底を伏せたような弧を描く形状になっているものを指します。滑らかな曲線が室内に落ち着きを与え、圧迫感を軽減しながらも空間に動きを加える効果があります。
[化粧屋根裏]
▶天井を張らずに垂木や木舞(こまい)、裏板などの屋根裏の構造材をそのまま見せる形式。斜めの屋根面が露出し、開放的な空間を生み出す。化粧屋根裏に「突上窓」を設けて光を取り入れることもある。
[竿縁天井]
▶細い竿縁を一定間隔で渡し、その上に天井板を張ったもの。格式の高い茶室や書院造の茶室で用いられることが多く、端正な印象を与えます。
[格天井]
▶木の桟を格子状に組み、その内部に天井板をはめ込んだ形式。武家屋敷や格式のある茶室で見られ、重厚感を演出します。
[網代天井]
▶竹や木を薄く割り、網目状に編んだ天井。独特の風合いがあり、茶室に繊細な趣を加えます。
[鏡天井]
▶客座の上部のみを平天井とし、他の部分とは異なる天井仕上げにするもの。客人に敬意を表すための意匠として用いられます。
[席天井]
▶亭主の点前座の上に設けられた天井で、周囲の天井よりも一段低くすることで、亭主の謙虚な姿勢を示す役割があります。
[屋根板天井]
▶屋根をそのまま天井として見せたもので、梁や垂木が露出しているのが特徴。簡素ながら力強い印象を持ちます。
[簾天井]
▶簾を天井に張ったもので、軽やかな雰囲気を持ち、夏の茶席などで涼しげな演出として用いられます。
[土天井]
▶天井を塗土で仕上げたもの。武家茶室などに見られ、重厚で落ち着いた趣を持ちます。
[貼付天井]
▶天井の全面に薄い板を貼り付けて仕上げたもの。シンプルな構造で、今日の住宅にも多く見られる形式です。
[引違天井]
▶天井板を引き違いの構造にしたもの。開閉可能な場合もあり、換気のために使用される。
[砂摺天井]
▶天井板の表面に細かい砂を撒いて仕上げたもの。独特の質感があり、光の反射を抑える効果がある。
[一崩天井]
▶一方が高く、もう一方が低くなるように傾斜をつけた天井。空間に動きを与え、広がりを感じさせる効果がある。
茶室の天井は、単なる屋根ではなく、空間の広がりや亭主と客人の関係性を表現する重要な要素です。
天井の違いを知ることで、茶室の空間がどのように計算されているのかをより深く理解することができます。
❙茶室の構成 ~ 窓 ~
茶室の窓は、単なる採光や通風のための設備ではなく、空間の趣や雰囲気を決定づける重要な要素の一つです。茶の湯においては、窓の形状や配置によって光と影を巧みに操り、室内に独特の奥行きや静寂を生み出します。また、壁面の意匠としても計算されて設置されており、茶室ならではの美意識が反映されています。
茶室の窓にはさまざまな種類がありますが、特に代表的なものとして以下の三つが挙げられます。
[下地窓]
▶別名:塗さし窓 / 塗残し窓 / かきさし窓
下地窓とは、土壁を塗らずに下地を露出させたまま仕上げた窓のことを指します。本来、建築においては壁を仕上げる際にすべてを塗り固めるのが一般的ですが、茶室ではあえて下地を見せることで、素朴で洗練された雰囲気を生み出します。
このような手法は、「わび茶」の精神とも通じるもので、装飾を排した簡素な美を表現する役割を果たしています。壁面のどこにでも設けることができ、茶室特有のデザイン要素として用いられるのが特徴です。
[連子窓]
▶連子窓は、窓の外側に竹や木の格子(連子)を取り付けた窓の形式です。茶室ではほとんどが竹を用いた「竹連子窓」の形式が採用されています。
この窓は、外からの光を適度に遮ることで室内にやわらかな陰影を作り出す効果があり、外部からの視線を防ぎつつ、風を通す役割も果たします。また、連子の間隔や配置によって光の入り方が変わるため、茶室ごとに異なる趣が生まれるのも特徴です。連子窓は、静寂の中に程よい開放感をもたらし、茶室の雰囲気をより豊かに演出します。
[突上窓]
▶突上窓は、茶室の屋根部分に設けられた天窓のことで、開閉できる覆い戸を木や竹の突上げ棒で支える構造になっています。
主に 「掛込天井」 の中央に設けられることが多く、茶室内の採光や換気のために重要な役割を果たします。突上窓を閉じることで静謐な空間を演出し、開くことで光や風を取り入れることができるため、季節や天候に応じた柔軟な空間演出が可能になります。特に夏場などは開けることで風通しをよくし、冬場は閉めることで室内の温もりを保つなど、機能的な役割と美的な効果を兼ね備えた窓といえるでしょう。
茶室の窓は、実用性だけでなく、美意識や精神性を体現する重要な要素の一つです。
茶室における窓の役割を理解することで、茶室がいかに細部にまでこだわって設計されているかがわかります。
茶の湯の世界における「もてなしの精神」は、こうした空間の作り込みにも現れていです。
❙茶室の構成 ~ 出入口 ~
茶室において、出入口は単なる通路ではなく、亭主と客人の動作やもてなしの精神を反映する重要な要素です。出入口の種類や形状は茶室の設計や茶の湯の流派によって異なり、それぞれに意味や機能が込められています。
ここでは、亭主の出入口と客人の出入口について詳しく解説します。
❙亭主の出入口❙
[茶道口]
▶亭主が点前を行う際に出入りするための出入口で、茶室の間取りにより「背口」と「腹口」の2種類に分かれます。
背口:点前座の背面に設けられ、亭主が直線的に入室できるもの。
腹口:点前座の横に設けられ、側面から入室するもの。
小間では「方立口」「火燈口」「袴腰口」「通口」「釣襖」などさまざまな形状があり、広間では障子や襖が用いられます。
[給仕口]
▶亭主が点前以外の作業で使用し、懐石料理の給仕や道具の出し入れを行うための出入口です。通常は「火燈口」が用いられますが、流儀によっては「袴腰口」も使われます。
❙亭主の出入口(形状)❙
[方立口]
▶茶道口に用いられる形式で、「方立」を立て、鴨居と敷居で開口部を構成し、水屋側に片引襖を設けます。襖は縁のない太鼓張りで、引手は「切引手」が用いられます。
※方立=円柱や柱のない壁などに建具を取り付けるために立てる縦長の角材
[火燈口(火頭口・櫛形口)]
▶給仕口に用いられる形式で、上部が半円形にくり抜かれた壁を設け、廻縁を奉書紙で貼り、水屋側に鴨居を設けたもの。襖は縁のない太鼓張りで、引手は「切引手」が使用されます。
[袴腰口]
▶給仕口として用いられ、火燈口と似ていますが、上部が台形(袴腰形)にくり抜かれているのが特徴です。遠州流の茶室に好んで使われます。
[通口]
▶茶室と水屋をつなぐ出入口で、給仕や道具の搬入などに使われます。
[釣口]
▶茶道口に用いられる形式で、襖を天井のレールに吊るし、片引きで開閉できるもの。柱に蝶番を付けたものもあり、用途に応じて異なる構造が採用されます。
❙客人の出入口❙
[躙口]
▶躙口は小間の茶室において、客人の出入口として設けられた片引戸です。
伝承によれば、『千家開祖/抛筌斎千宗易(利休)(1522-1591)』が漁夫が小さな戸口から出入りする様子を見て着想を得たとされています。また、間口を狭くすることで武士が帯刀して入ることを不可能とし、茶室内では身分の差をなくし、すべての人が平等であることを示しました。躙口は茶室の隅に設けられ、床の間に向かって作られるのが一般的です。「貴人口」と併設する場合には、直角の位置に配置されることが多くなっています。
[貴人口]
▶躙口が一般的になる以前に用いられた出入口で、身分の高い客人が立ったままの姿勢で茶室に入ることができるものです。構造としては、二枚の襖や障子を入れ違いにして開閉する形が主流です。本来、「貴人口」は土間などから座敷へ上がるための出入口(上口)を指し、部屋続きの空間から出入りするものは厳密には「貴人口」とは区別されます。
茶室の出入口には、亭主と客人それぞれに異なる種類と機能があり、それぞれの役割を果たすように工夫されています。
出入口の違いを理解することで、茶室の設計や茶の湯の精神をより深く学ぶことができます。
❙茶室の構成 ~ 仕切 ~
茶室における仕切は、単に空間を分割する役割だけでなく、亭主と客人の距離感の調整、空間の演出、茶席の格式を示す重要な要素の一つです。壁の配置や形状によって、視線や光の入り方、動線までもが計算され、茶の湯の世界観が作り出されます。
本項では、茶室に用いられる代表的な仕切壁の種類について解説します。
[襖]
▶襖は、部屋を仕切るための移動式の建具で、書院造の広間や客畳と水屋の仕切りなどに用いられます。襖の開閉によって空間の広がりや閉鎖感を調整できるため、茶席の雰囲気を変化させる重要な要素となります。襖の意匠や素材にもこだわりが見られ、格式の高い茶席では、格調ある襖絵が施されることもあります。
[障子]
▶障子は、和紙を張った木製の建具で、室内に柔らかい光を取り入れる役割を持ちます。茶室では「雪見障子」や「腰張障子」など、様々なデザインの障子が用いられ、外の景色を切り取る額縁のような効果も果たします。外とのつながりを感じさせながらも、適度に視線を遮ることで、落ち着いた空間を作り出します。
[壁(塗壁・下地窓)]
▶茶室の壁は、基本的に土壁で仕上げられることが多く、漆喰や聚楽壁などの仕上げが施されます。特に、壁に開けられた「下地窓」は、外の光を適度に取り入れながらも、茶室内の陰影を活かすために配置されます。壁の質感や色合いは、茶室全体の雰囲気を左右する重要な要素となります
[袖壁]
▶袖壁は、出入口や床の間の横に設けられる部分的な壁で、空間の仕切りと装飾の両方の役割を果たします。特に躙口の側に設けられることが多く、客が出入りする際に視線を遮ることで、より一層の静寂と奥行きを生み出します。また、茶席における動線を整理する役割も果たし、空間の美しさと機能性を両立させる仕切壁の一つです。
[道安囲い]
▶「道安囲い」とは、『利休長男/千道安(1546年-1607年)』が考案したとされる仕切りで、壁の一部に細い竹を縦に並べて仕切るものです。完全に閉鎖するのではなく、視線が適度に通ることで茶室に奥行きを持たせ、軽やかな雰囲気を演出するのが特徴です。格式ある茶室でも見られる意匠の一つであり、開放感を残しつつ、静寂を保つ工夫が施されています。
[連子]
▶連子とは、木や竹を細く割ったものを一定の間隔で並べた格子のことを指し、窓の装飾や通風のために用いられます。
室内に風を取り入れるとともに、視線をやわらかく遮る機能を持ち、外部と適度なつながりを持たせることができます。連子の間隔や配置によって光の入り方が変化するため、茶室ごとに異なる趣が生まれるのも特徴です。
茶室における仕切壁は、単なる間仕切りの役割を超えて、空間全体の美意識や機能性を高める要素として設計されています。
仕切りの工夫によって、茶室の静寂と奥行きが生まれ、亭主のもてなしの心がより際立つ空間が完成します。
❙茶室の構成 ~ 屋根 ~
茶室の屋根は、単なる建築構造の一部ではなく、茶室の趣や「わび・さび」の美意識を表現する重要な要素です。屋根の形状や材料の選定は、茶室全体の調和を考慮して設計され、亭主の美意識やもてなしの心が反映されています。
本項では、茶室に用いられる代表的な屋根の種類とその特徴について解説します。
[茅葺]
▶茅葺とは、茅や葦などの草を厚く重ねて葺いた屋根で、茶室や古民家などに見られる伝統的な形式です。厚みがあり保温性・断熱性に優れ、外気の影響を受けにくいため、夏は涼しく冬は暖かい快適な空間を生み出します。また、時間の経過とともに屋根の色が変化し、自然と調和した景観を生み出すのも特徴の一つです。
[板葺]
▶板葺とは、杉やヒノキなどの木の板を重ねて葺く屋根のことで、茶室や数寄屋建築でよく用いられます。シンプルで素朴な印象を与えるため、草庵茶室の「わび・さび」の精神を表現する屋根として適しています。屋根材としては「柿葺」が代表的で、薄く削った木の板を重ねることで軽量化し、茶室の落ち着いた雰囲気を演出します。
[瓦葺]
▶瓦葺とは、粘土を焼成した瓦を敷き並べた屋根のことで、耐久性が高く、格式のある茶室に採用されることが多いです。特に、書院造の影響を受けた広間の茶室では、格式を重んじるために瓦葺が用いられることが一般的です。軒の反りや瓦の並べ方によって屋根の印象が大きく変わり、茶室の佇まいを決定づける要素となります。
[柿葺]
▶柿葺は、薄い木の板(柿板)を何重にも重ねて葺いた屋根のことで、板葺の一種です。木材の自然な風合いを生かしながら、屋根全体に柔らかな質感を与えるため、草庵茶室にもよく用いられます。特に、軽量でありながら風雨に強いことから、長寿命の屋根材としても知られています。
[銅板葺]
▶銅板葺は、金属の銅板を使用して屋根を覆う形式で、主に近代の数寄屋建築や茶室に取り入れられています。軽量かつ耐久性が高く、年月を経るごとに美しい緑青を帯びるのが特徴です。伝統的な屋根材と異なり、防火性や耐久性に優れるため、現代の茶室で多く採用されています。
茶室の屋根は、見た目の美しさだけでなく、断熱性・耐久性・環境との調和といった機能性も重視されています。
茶室の屋根は、周囲の環境と調和しながら、亭主の美意識や茶の湯の精神を映し出す重要な要素です。それぞれの屋根が持つ特性を理解することで、茶室の奥深い魅力をより深く味わうことができます。
❙茶室の構成 ~ 中柱 ~
茶室の構造において、「中柱」は単なる支柱ではなく、空間の美意識や格式を決定づける重要な要素です。特に草庵茶室においては、その存在感が際立ち、亭主と客人の関係性を象徴する役割も担っています。
❙中柱とは❙
中柱とは、茶室の床の間と点前座の境に設けられる柱を指します。
この柱は、単に建築構造上の支えとして機能するだけでなく、空間の象徴的な要素として茶室の趣を決定づけます。
❙役割❙
中柱には、主に以下のような役割があります。
[空間の区切り]
▶茶室の中で、床の間と点前座を明確に分ける役割を果たします。これにより、床の間がより独立した神聖な空間として強調されます。
[構造的な支え]
▶茶室の小規模な空間の中でも、安定した構造を維持するための支柱として機能します。天井を支えたり、建物全体の強度を補強する目的もあり、実用性と美意識が融合した重要な建築要素です。
[美的要素]
▶中柱は、素材や加工方法によって、茶室の美しさを演出する要素の一つとなります。「わび・さび」の精神を表現するため、自然の風合いを活かした木材が用いられることが多いのが特徴です。
❙材質❙
中柱に用いられる材質は茶室の趣に合わせて選ばれます。
[竹]
▶草庵茶室では、風情を感じさせる竹の中柱が好まれることが多い。
[槐]
▶古くから縁起が良いとされ、茶室に格調を与える木材として使用される。
[杉,松]
▶落ち着いた質感と堅牢性を兼ね備え、一般的な茶室にも多く用いられる。
[自然木]
▶樹皮をそのまま残し、「ありのままの自然」を表現するために使われることもある。
❙形状❙
中柱の形状には以下のような種類があります。
[直柱]
▶まっすぐな柱で、格式ある茶室に多く用いられる。
[曲がり柱]
▶自然のままの形を活かし、草庵茶室に多用される。
[面皮柱]
▶樹皮の一部を残した柱で、素朴で自然な趣を感じさせる。
茶室の中柱は、単なる構造材ではなく、空間を象徴する重要な要素です。床の間と点前座を区切ることで、亭主と客人の関係性を視覚的に示し、茶の湯のもてなしの精神を表現します。
自然の風合いを活かした木材が用いられることが多く、侘び茶の精神に基づき、ありのままの美を演出します。また、中柱の配置や形状が空間のバランスを整え、光や視線の流れを調整し、茶室全体の趣を決定づけます。
茶室における中柱は、構造を支えるだけでなく、空間の美意識を高める象徴的な存在として、亭主と客人の心の交流を深める役割を果たしています。
❙茶室の構成 ~ 仕付棚 ~
茶室に設えられる 「仕付棚」 とは、点前に必要な茶道具を置くための棚を指します。
茶の湯においては、亭主の動作が無駄なく美しく見えるよう設計され、茶道具を機能的に配置し、動線を整える役割を果たします。
仕付棚にはさまざまな種類があり、茶室の広さや用途、亭主の点前に応じて使い分けられています。
以下に、代表的な仕付棚を紹介します。
[洞庫]
▶道具畳の勝手付に仕付けられ、亭主が点前座から使用できるように考案された押入式の仕付棚。元来、立居不自由な者が使用するために設計され、特有の点前作法が決められています。その昔『道幸』という人物が創意したとも伝えられ、「道幸」「道古」「堂庫」「道籠」とも記されていました。
総体は高さ二尺三寸(約70cm)、横二尺二寸(約67cm)で、杉板の引違戸で棚板が一段通り、柄杓釘が打たれている。
他に置き運び可能な「置洞庫」や水を流せる「水屋洞庫」が考案されています。
[釣箱棚]
▶釣箱棚は、天井や柱に吊るして設置する棚で、茶道具を収納する機能を持つものです。天井から吊るすことで空間を広く見せる効果があり、道具の取り出しやすさを考慮した設計となっています。
[蛤棚]
▶蛤棚は、その名の通り、蛤(はまぐり)の貝殻の形を模した棚で、意匠を凝らしたデザインが特徴です。主に、茶碗や水指を置くために使用され、茶席の雰囲気を柔らかく演出します。
[大釣棚]
▶大釣棚は、釣棚の一種であり、大型のものを指します。広間の茶室や格式のある茶席で用いられ、収納機能とともに、茶席全体の美観を整える要素ともなります。
仕付棚は、茶室における道具の収納や取り扱いを効率的にするだけでなく、茶室内の美観や機能性を高める重要な要素です。
茶室における仕付棚の役割を理解することで、茶の湯の空間設計に対する深い知識を得ることができるでしょう。