
茶道入門
09.茶道具
❙はじめに ~ 茶道具 ~
「茶道入門」では茶道に初めて触れる皆様が茶道の基本を学び、心を込めたおもてなしの精神を体験できるよう、茶道の基礎を全10項目にわたって、わかりやすく解説してご紹介しています。
本ページでは、さまざまな茶道具の用途や特徴を解説し、茶道具を通じて、茶道の奥深い精神性と伝統美を紐解き、その魅力を存分にご紹介いたします。
それでは「茶道具」について詳しく見ていきましょう。
❙茶道具 ~ 茶道具とは? ~
茶道具とは、茶の湯の世界を形作るための数多くの道具群を指し、単なる実用品ではなく、茶人の修練と美意識、そして伝統が息づく芸術品とも言えます。
茶席においては、床の間道具、点前道具、炭道具、懐石道具、待合道具、露地道具、燈火道具、野点道具、懐中道具、消耗品など、用途に応じたさまざまな茶道具が用いられています。
これらの道具は、厳選された素材と伝統的な製法により製作され、茶室の静謐な空間に美しく溶け込みながら、茶の湯の儀式を一層引き立てる役割を担っています。
茶道具一つひとつには長い歴史や背景、そして職人の技と心が込められており、これらが集まることで初めて茶道の全体像が完成します。いずれの道具も単独では何も成し遂げることはできず、各道具が互いに補完し合い、調和することで、茶の湯という儀式が成立するのです。
❙茶道具 ~ さまざまな茶道具 ~
ー
❙茶道具 ~ 床の間道具 ~
茶室の床の間は、茶道における美意識と精神性が最も表れる空間です。ここには、茶会の趣を引き立てるための各種道具が配され、亭主のもてなしの心や季節感、そして伝統美が表現されています。
ここでは床の間に飾られる代表的な道具についてご紹介します。
❙掛軸❙
掛物とも呼ばれ、茶室の床の間に飾ることで、空間に落ち着きと品格をもたらします。掛軸の種類には、墨蹟、古筆、絵画、画賛、消息などがあり、それぞれの掛軸が持つ歴史や意味が、茶席の趣を一層深めます。
❙花入❙
茶席には季節ごとの花が飾られ、その花を収める器を「花入」と言います。花入は、飾り方や用途に応じて「置き花入」「掛花入」「釣り花入」に使い分けられ、素材は金物、陶磁器、竹、籠など多様です。
❙床飾・荘道具❙
床飾・荘道具は、床の間に配置されるその他の装飾品や儀礼用具です。これらは掛軸や花入とともに、茶室の静謐な空間に品格と趣を加えるための道具です。
❙茶道具 ~ 点前道具 ~
茶道における点前道具とは、一服の茶を点てるために使用される道具を指します。
点前道具の代表的な道具とその特徴をご紹介いたします。
❙ 茶碗 ❙
茶を飲むための器で産地や焼き方によって分類され、「唐物茶碗」、「高麗茶碗」、「楽焼」、「和物茶碗」などの種類があります。
❙ 茶杓 ❙
茶入や薄茶器から抹茶をすくい、茶碗に入れるための匙です。多くは竹製ですが、木製や象牙製のものも存在します。
❙ 茶入・仕覆 ❙
濃茶用の抹茶を入れるための小さな器で、陶器製のものが多く、象牙の蓋が付けられることもあります。茶入には「唐物茶入」「瀬戸茶入」「国焼茶入」「島物茶入」などがあり、形状も「文琳」、「茄子」「瓢箪」「鶴首」「大海」など多様です。茶入を包む袋は「仕覆」と呼ばれます。
❙ 薄茶器 ❙
薄茶用の抹茶を入れる、蓋付きの容器です。薄器とも呼ばれ、主に木製で漆塗りのものが多く、蒔絵や螺鈿で装飾されたものもあり、形状は「中次形」と「棗形」に大別されます。
❙ 茶筅 ❙
濃茶を練ったり、薄茶を点てるために用いる、竹製の道具です。使用される竹の種類には、白竹、煤竹、青竹などがあり、茶の点前に欠かせない存在です。
❙ 茶巾 ❙
点前の途中で茶碗を拭いて清めるために使用する布です。奈良晒などの麻布が一般的に用いられ、茶席の清潔さを保つ役割を果たします。
❙ 水指 ❙
茶釜に水を足したり、茶碗や茶筅を清めるための水を入れておく器です。陶磁器製が主流ですが、木製、漆塗、金属、ガラス製など、季節や棚、その他合わせる道具に応じて使い分けられます。
❙ 柄杓 ❙
湯や水を汲み取るための、柄のついた竹製の道具で「月形」と「指通」があり、特に「月形」は炉用と風炉用に分かれます。
❙ 蓋置 ❙
釜の蓋や柄杓を置くために使用する道具で、金属、陶磁器、木、竹などの素材があります。竹製の蓋置が多く、竹の節の位置により炉用と風炉用に使い分けられます。
❙ 棚物 ❙
四畳半以上の茶席において、道具畳に水指、薄茶器、柄杓、蓋置などの茶道具を飾り置く棚の総称です。これを用いて行う棚点前も存在し、各流派の宗匠の御好みによって、素材や形状、飾り方に多様性があります。
❙ 皆具 ❙
水指、柄杓、建水、蓋置の基本的な茶道具四器を総称して「皆具」と言います。同じ素材、同じ柄のもので統一され、台子や長板に配置されます。
❙ 建水 ❙
点前の際、茶碗を清めた湯や水を捨てるための容器で、「水こぼし」とも呼ばれます。最も格が低い道具とされ、客人の目につきにくい場所に設置されます。
素材は唐銅などの金属製のほか、陶磁器、木製など多様で、「七種建水」と呼ばれる代表的な形状として、「大脇差」「差替」「棒の先」「鉄盥」「鎗の鞘」「瓢箪」「餌畚」があります。
❙ 炭道具 ❙
炭点前に使用される道具一式を指します。炭斗、火箸、羽箒、鐶、釜敷、灰器、灰匙などが含まれ、これらは炭斗に他の道具を収め、炭点前を行い、炭火の維持や温度管理などを行います。
❙茶道具 ~ 釜道具 ~
茶道における釜道具は、茶の湯の儀式に欠かせない重要な要素です。茶会を主宰することを「釜をかける」という言葉が示す通り、湯を沸かす釜やそれに付随する道具は、茶会全体の趣向や格式を現します。
以下では、各釜道具の種類とその特徴についてご紹介いたします。
❙釜❙
釜は、茶を点てるための湯を沸かす鋳鉄製の道具です。茶会を催す際、「釜をかける」という表現があるほど、その重要性は高いです。釜は炉用と風炉用のものがあり、炉用の釜は風炉用に比べ大ぶりとなっています。釜の形状や蓋、口の造りなどにより分類され、大別して「芦屋釜」「天明(天命・天猫)釜」「京釜」などがあげられます。
❙風炉❙
風炉は、五月から十月までの風炉の時季に用いられる火鉢状の道具です。風炉は炭火を入れて釜をかけるためのもので、縁の一方が風を通すように開けられているのが特徴です。主な種類としては、「土風炉」「唐銅風炉」「鉄風炉」などがあります。
❙鉄瓶❙
鉄瓶は、鋳鉄製で注ぎ口と弦が付いた湯を沸かす道具です。茶会では、均一な温度管理が求められるため、伝統的に使用されてきました。
❙瓶掛❙
瓶掛は、鉄瓶を掛けるための火鉢または小さい風炉を指し、盆略点前や茶箱点前の席で用いられ、鉄瓶を安全かつ美しく配置するための補助道具です。
❙電熱釜❙
電熱釜は、現在制作中の新型釜です。電気で湯を沸かすため、現代の施設や火気制限のある場所での茶会に対応することを目指しています。
❙炉縁❙
炉縁は、炉の縁に嵌め込む木製の枠です。広間での使用が原則とされ、炉の火気が畳に伝わらないようにするほか、炉周りの装飾としての役割も果たします。塗物で仕上げたものなど、さまざまなタイプがあります。
❙置炉❙
置炉は、持ち運びが可能な炉で、固定された炉が使えない部屋などで、炉の代用として使用されます。移動式であるため、柔軟な茶会運営に貢献します。
❙鐶❙
鐶は、釜の鐶付部分に通す鉄の輪で、釜の上げ下ろしや移動の際に用います。釜を安全かつ円滑に取り扱うための補助道具です。
❙釜敷❙
釜敷は、火から釜を下ろす際に釜の下に敷いて、釜や床を保護するための道具です。「釜置」や「釜据え」とも呼ばれ、釜の安定を図る重要なアイテムです。
❙茶道具 ~ 席中道具 ~
茶道具の中でも「席中道具」は、茶室内に配置され、茶会の進行と雰囲気を支える重要な役割を担っています。
以下に、席中道具の代表的な道具とその特徴を解説いたします。
❙香合❙
香合は、香を入れて焚くための蓋付の器です陶磁器製の炉用のものや、木地や漆器製の風炉用のものがあります。香合は、茶席にほのかな香りを添え、空間に落ち着きと品格をもたらします。
❙菓子器❙
菓子器は、席中で出される菓子を盛り付ける器です。主菓子を入れる主菓子器と、干菓子を入れる干菓子器があり、正式な茶事では原則として、主菓子は一人につき一客分の菓子器が用いられます。菓子器は、茶会の趣を引き立てるとともに、季節感を演出する大切な道具となります。
❙風炉先・結界❙
風炉先とは、道具畳の向こう側に立てられる二枚折りの屏風のことで、風炉先屏風とも呼ばれます。これらは、茶道具を引き立て、保護する役割を果たします。また、結界は、低い衝立で竹や自然木を利用したものが用いられ、風炉先と同様に茶席全体の装いを整えるために使用されます。
❙煙草盆❙
煙草盆は、喫煙に用いる火入、灰吹、煙草入、煙管などの一式を収める道具です。正式な茶事では、待合や席中で使用され、特に後座の薄茶の際に持ち出されます。さらに、煙草盆の配置は、正客が座る位置を示す役割も担います。
❙火入❙
火入は、煙草につける火種を入れるための器具です。煙草盆内に灰吹とともに仕組まれ、中に灰を入れ、火が点いた切炭を中央に埋めることで火種とします。陶磁器製のものが多く使われ、茶席での喫煙道具の安定した運用に寄与します。
❙灰吹❙
灰吹は、竹製で作られた容器で、煙草の吸い殻を入れるために使用されます。煙草道具一式として煙草盆に組み込まれ、喫煙の際の清潔さを保ちます。
❙煙管❙
煙管は、刻み煙草を詰めて喫煙するための道具です。正式には一対で煙草盆に仕組まれますが、一本で使用される場合もあります。通常、竹製の管や、金属製の雁首、吸口などで構成され、茶席での喫煙文化を支えます。
❙煙草入❙
煙草入は、刻み煙草を収納し、煙草盆内に組み込むための器具です。紙製のものや、香料や薬味を加えたものなど、さまざまなタイプがあり、煙草の風味や使用目的に合わせて選ばれます。
❙茶道具 ~ 炭道具 ~
茶の湯における炭道具は、茶会の雰囲気や点前の完成度を左右する重要な道具です。炭点前の際、亭主が最初に炭を扱うために使用するこれらの道具は、茶会全体の風情を演出するために欠かせない道具と言えます。
以下に代表的な炭道具の特徴と用途についてご紹介いたします。
❙ 炭斗 ❙
炭斗は、炭点前で亭主が最初に持ち出す道具で、炭や火箸などの炭道具を入れる器です。炭斗は、産地別に大別して唐物と和物の二種類があり、風炉と炉で使用する炭の大きさが異なるため、風炉用には小さく深いもの、炉用には大きく浅いものが用いられます。
❙灰器❙
灰器は、炭点前の際に灰匙で炉や風炉の中に灰を撒くために使用する、陶磁器製の器です。別名「灰炮烙」または「炮烙」とも呼ばれます。風炉用の灰器は小振りで釉薬がかかっており、炉用は大ぶりで素焼きまたは焼締めのものが選ばれます。
❙火箸❙
火箸は、炭斗から炭を取り出し、風炉や炉に投入するために使用する金属製の箸です。別名「火筋」とも呼ばれ、風炉用はすべて金属製で、炉用は木の柄が付けられており、普通は桑柄が多く用いられます。
❙灰匙❙
灰匙は、炭点前の際に風炉や炉に灰を撒くため、また灰形を作るために使用される匙です。席中に持ち出す灰匙には、風炉用と炉用があり、風炉用は小振りで長めの柄に竹の皮が巻かれたもの、炉用は大ぶりで桑の木の柄が付いたものが主に用いられます。
❙釜敷❙
釜敷は、火から釜を下ろす際に、釜の下に敷いて釜や床を保護するための道具です。「釜置」や「釜据え」とも呼ばれ、釜を安定して使用するために重要な役割を果たします。
❙焙烙❙
焙烙は、灰を入れるための平たい容器で、炭点前の際に炉または風炉の灰を入れて持ち出すために用いられます。形状や大きさは様々ですが、茶席での灰の処理に欠かせないアイテムです。
❙羽箒❙
羽箒は、炭点前の際に風炉や釜の蓋、炉縁の周囲、炉壇の上、または五徳の爪などを清めるために使用される小形の箒です。鳥の羽で作られており、種類は、三枚の羽根を重ねた「三つ羽」、一枚の「一つ羽」、さらに「掴み羽箒」「飾り羽箒」「座箒」などがあります。また、「三つ羽」の場合、羽根の形状により「右羽」「左羽」「双羽」に区別されることもあります。
❙茶道具 ~ 水屋道具 ~
―
❙茶道具 ~ 懐石道具 ~
茶道における懐石は、茶会において客人をもてなすために供される食事であり、その懐石を支える道具もまた、茶の湯の世界観を表現する重要な要素となります。懐石道具は、食事を提供するための器や箸、盆など多岐にわたり、季節や茶会の趣旨に応じて使い分けられます。特に、素材や形状、塗りの種類などが選び抜かれ、茶室の設えと調和することが求められます。
ここでは、懐石で用いられる代表的な道具をご紹介します。
❙折敷(懐石膳)❙
黒塗りが基本の四角いお膳で、「飯椀」「汁椀」「向付」をのせ、縁に箸をかけて亭主が客人に給仕します。季節や趣向に応じて、溜塗、春慶塗のものや丸形、半月形の折敷も用いられます。
❙飯椀❙
無地の黒塗りが基本で、白飯を盛る椀です。汁椀と対のものを用い、汁椀よりも大ぶりのものが選ばれます。
❙汁椀❙
無地の黒塗りが基本で、汁物を盛るための椀です。飯椀よりもやや小振りのものが用いられます。
❙煮物椀(菜盛椀・平椀)❙
大きく浅めの形状を持つ塗椀で、黒塗りのものが基本ですが、蓋や見込みに蒔絵が施されたものもあります。
❙丸盆(給仕盆・通い盆)❙
黒塗りの縁のついた丸いお盆で、大・小の二枚が入れ子になっています。亭主が御飯や汁物を運ぶ際に用います。
❙飯器(飯次)❙
ご飯を入れる黒塗りのお櫃で、専用の杓子が添えられています。
❙杓子❙
飯器からご飯を掬うための道具で、飯器と同じ素材のものを用います。
❙小吸物椀❙
小ぶりの塗椀で、かすかに味を付けた汁を入れるための器です。蓋は八寸の取り皿としても用いられます。
❙湯斗(湯桶・湯次)❙
黒塗りの円筒形の器で、注ぎ口と持ち手、盛蓋がついています。お焦げや湯漬けを入れて提供し、『湯の子掬い』が添えられます。
❙湯の子掬い❙
細長い柄の先端に杓子がついた道具で、湯斗と同じ素材のものを用います。湯斗の中に入れられたお焦げや湯漬けを掬い取るために用いられます。
❙引盃❙
客一人ひとりが一枚ずつ取る盃で、五客が一組になっています。銚子とともに、客の人数分を盃台に積み重ねて席中に持ち出します。黒塗や朱塗、蒔絵や陶磁器のものがあり、歴代家元の好みの意匠が施されたものも存在します。
❙盃台❙
引盃を載せる台で、形状は天目台に似ています。盃台の色は、盃と共塗にするか、盃が朱塗りの場合は黒塗りのものを用います。盃台には客の人数分の盃を積み重ね、銚子とともに席中に持ち出します。
❙つぼつぼ❙
赤楽で焼かれた小さな椀形の器で、茶事に初めて招いた客にのみ用いられます。中には、大根と人参のなますを一摘み入れて持ち出します。
❙汲出盆❙
汲出茶碗をのせるお盆で、寄付や待合での呈茶の際に用います。
❙汲出茶碗❙
寄付や待合で白湯や香煎、桜湯を入れて出す広口の小さな茶碗です。抹茶茶碗と同様に、さまざまな焼物や絵柄の種類があり、待合では盆にのせて運び出されます。
❙八寸❙
主客が献酬するための肴を二種、ごく少量ずつ盛って出すための器です。一会限りの使い捨てが本来の形式とされ、赤杉の四角い木地盆が基本ですが、塗八寸や陶磁器が用いられることもあります。赤杉の木地盆は、角を曲げた形状で、一方に綴目があり、綴目を向こうにして扱います。
❙食箸(懐石箸)❙
懐石に用いる箸には、「食箸(懐石箸)」と「菜箸」の二種があります。菜箸は、焼物や八寸などの取り箸として添えられます。素材は青竹で、節の位置により、「中節(八寸用)」「元節(預け鉢用)」「両細(香物鉢用)」の三種に分けられます。また、青磁など傷つきやすい器を出す場合には、矢筈箸が用いられます。
❙菜箸❙
取り回しの鉢や皿に添えられ、客が料理を取り分けるための長めの箸です。一般的には青竹製で、茶事の種類や料理の内容によって適切なものを選びます。
❙茶道具 ~ 待合道具 ~
茶会において、待合は客人が席入りする前に心を落ち着かせるための空間です。待合には、茶会の趣向や季節を感じさせる掛物や香、寄付に供される茶や白湯の器などが設えられ、客人はここで一息つき、これから始まる茶の湯の世界へ心を整えます。
また、冬季には火鉢や手焙が置かれ、客人の手を温めるために使われることもあります。これらの道具は、亭主のもてなしの心を表す大切な役割を持ちます。
ここでは、待合や寄付で用いられる代表的な道具をご紹介します。
❙汲出茶碗❙
茶事や茶会にて、寄付または待合で、客に供される白湯や香煎などを入れる茶碗です。通常の茶碗より小さめで煎茶茶碗より背が低く、抹茶碗と同様にさまざまな種類があります。
❙火鉢・手焙(手炉)❙
冬季の茶事や茶会にて、寄付、待合、腰掛待合などに置かれる炭を使った暖房器具です。小型の火鉢を手焙といい、「手炉(しゅろ)」とも呼ばれます。客人が手を温めるために設えられ、寒い季節のもてなしとして重要な役割を果たします。
❙毛氈❙
野外で茶を点てる茶会「野点」を行う際に、地面に敷く赤い絨毯のような敷物を毛氈といいます。この上に座って茶を楽しむためのものであり、野点における設えの一つとして欠かせない道具です。
❙煙草盆❙
喫煙に用いる火入、灰吹、煙草入、煙管などの一式を収める道具です。正式な茶事においては、待合や席中で使用され、席中では後座の薄茶の際に持ち出されます。また、煙草盆の置かれている位置によって、正客の座る位置を示す役割も担います。
❙茶道具 ~ 露地道具 ~
露地は、茶室へと至る庭のことであり、茶会において客人が心を落ち着け、茶室へ入る準備を整える場とされています。ここには、茶会の趣向や季節感を演出するためのさまざまな道具が置かれ、客人が身を清めたり、自然を楽しんだりするための工夫が施されています。
露地道具は、手水を取るための道具や履物、清掃のための道具など、茶室へ至るまでの一連の作法を整えるためのものが揃えられます。これらの道具は、茶会の準備や客人のもてなしに欠かせない存在であり、露地の整え方ひとつで茶席の趣が大きく変わります。
ここでは、代表的な露地道具をご紹介します。
❙手桶❙
露地に設置された蹲踞に水を運ぶための手付きの桶で通常、赤杉や椹などの木材で作られ、割蓋が添えられます。蹲踞の水を常に清潔に保つために用いられます。
❙湯桶❙
寒中の茶会では、蹲踞の湯桶石の上に湯を入れた湯桶を置くことがあります。これは、手水に代えて湯を用い、手や口を温めながら清めるために使用されます。冷え込む時期のもてなしとして大切な道具の一つです。
❙手水桶❙
露地に蹲踞がない場合や、悪天候で露地入りができないときに、客人が手や口を清めるための水を汲んでおく桶です。赤杉や椹などで作られ、松や杉の蓋が付いています。
❙露地草履❙
茶室の露地を歩く際に履く、竹皮などを二重に編み込んだ草履です。天候が良い時に用いられ、客人はこれに履き替えて露地を進みます。雨天や雪の日には、代わりに露地下駄が用いられます。
❙露地下駄❙
雨天や雪の際に、茶室の露地を歩くための履物です。多くは赤杉で作られ、鼻緒には撚った竹の皮が用いられます。悪天候でも足元を汚さずに移動できるよう工夫されています。
❙露地傘❙
雨天や雪の日の茶会において、客人が露地で使用する浅くて大きな傘です。竹の骨組みに竹皮が貼られたもので、「数寄屋傘」や「竹子傘」とも呼ばれます。露地を進む際に客人が濡れないように配慮されています。
❙円座❙
露地の腰掛けに置かれ、客人が座る際に使用する座布団の代わりとなる道具です。竹の皮や真菰(まこも)を渦巻状に編みつなげ、円形で平らに仕立てられています。自然素材の風合いが露地の景観と調和します。
❙塵箸❙
竹を割って作られた箸で、露地の塵穴の役石に立てかけておきます。露地の木葉などの塵を拾うために用いられ、茶会の度に新しいものが用意されます。
❙塵取❙
露地の落ち葉や塵を掃き集め、塵穴へ運ぶための木製の道具です。露地の美しさを維持し、客人が心地よく通れるように整えます。
❙蹲踞柄杓❙
露地の蹲踞にある手水鉢の水を汲み取るための柄杓です。杉の木地で作られ、同じ素材の柄が付いています。手水鉢の大きさに合わせて適切なサイズのものを用います。
❙茶道具 ~ 燈火道具 ~
燈火道具は、茶席や茶事において灯りをともすための道具であり、特に「夜咄の茶事」などの夜間に行われる茶会では欠かせない存在です。茶道の空間では、灯りの配置や種類によって趣が大きく変わり、静寂で幻想的な雰囲気を演出するために用いられます。燈火道具には、行灯や灯台といった油を使うもの、蝋燭を立てる手燭や膳燭などの燭台類、灯芯や蝋燭といった燃料類など、多くの種類があり、それぞれの用途や設置場所によって使い分けられます。ここでは代表的な燈火道具をご紹介します。
❙短檠❙
夜咄の茶事に使用される、室内用の背の低い灯台です。客人の前に置かれ、静かな光を灯して茶席の雰囲気を高めます。
❙竹檠❙
短檠と同じく夜咄の茶事で使用される灯火具で、竹製のものです。手付きと手無しがあり、用途や趣向に応じて選ばれます。
❙灯台❙
台座の上の柱に油を入れる皿を載せ、その上に蜘手(くもで)と呼ばれる台を置いたものです。油盞(ゆせん)に油を入れ、灯芯を浸して点火することで灯りをともします。
❙行灯❙
油を用いた灯火具の一つで、油皿の周囲に立方形や円筒形の木枠を作り、和紙を貼って火袋を設けたものです。風による灯火の揺れを防ぎ、柔らかな光で室内を照らします。
❙小灯❙
蝋燭を一本立てる小型の燭台で、狭い空間や補助的な灯りとして用いられます。
❙膳燭❙
蝋燭を立てる燭台の一種で、夜咄の茶事において懐石料理を照らすために用いられます。客人が食事をする際に、手元を優しく照らします。
❙手燭❙
持ち運びができる小型の燭台で、柄がついているのが特徴です。夜の茶事では、客人が席入りする際の灯りとして用いられます。
❙灯芯❙
行灯や灯台などの灯火具に用いる芯で、油を吸い込ませて火を点け、明かりとして用います。
❙蝋燭❙
縒り糸や紙を縒り合わせた芯を中心に、周囲に蝋を塗り円柱状に成形したものです。灯台や燭台に立てて点火し、灯りをともします。
❙茶道具 ~ 野点道具 ~
野点道具とは、屋外で茶を点てる「野点(のだて)」に使用される茶道具のことを指します。野点は、茶室の枠を超えて自然の中で行う茶会であり、携行性や利便性を考慮した道具が使われます。屋外ならではの開放感のある茶席を設えるため、道具の選び方や扱い方にも独自の工夫がなされています。
ここでは、野点に用いられる代表的な道具についてご紹介します。
❙茶箱❙
点前に必要な最低限の道具一式を収納し、持ち運ぶための箱です。もともとは野点用に考案されましたが、現在では室内での稽古や小規模な茶会でも使用されています。
❙野点籠❙
野点の際に、点前に必要な最低限の道具一式を収納し、持ち運ぶための籠です。茶箱と同じく携行性に優れ、野外の茶会に適しています。
❙立礼棚❙
立礼棚は、椅子に座って点前を行う「立礼(りゅうれい)式」の茶道に用いられる棚のことを指します。主にテーブル型の構造を持ち、風炉や水指、建水、杓立などの茶道具を配置して使用します。表千家・裏千家ともに独自の立礼棚があり、「末広棚」「御園棚」や「点茶盤」などの種類があります。特に立礼席や大寄せの茶会、野点などで重宝され、椅子席でも茶の湯の風情を楽しめるよう設計された実用的な茶道具です。
❙末広棚❙
末広棚は、表千家に伝わる折り畳み式の茶道具棚で、立礼点前や茶箱点前に用いられます。二段構造で、上段に水指や薄茶器、下段に茶碗や建水を置き、簡素ながらも品格のある設えが特徴です。扇を広げたような形から「末広」と呼ばれ、縁起の良い道具とされています。収納性が高く、持ち運びにも便利で、限られた空間でも扱いやすいことから、現代の茶席や野点にも適しています。格式と実用性を兼ね備えた、表千家の象徴的な棚の一つです。
❙御園棚❙
御園棚は、裏千家に伝わる立礼(りゅうれい)点前に用いられる棚で、テーブルと椅子を使用する茶席に適しています。長方形の天板に四本の脚を備えたシンプルな構造で、点前の際には水指や薄茶器、建水などを整然と配置します。軽やかで扱いやすく、特に野点や大寄せの茶会など、多くの客を迎える場で重宝されます。名前の由来は、裏千家の茶席「御園」にちなんでおり、格式と機能性を兼ね備えた実用的な茶道具棚の一つです。
❙長机/床几❙
床几は、茶席や野点(のだて)などで使用される簡易的な腰掛けで、茶会の際に客が待機したり、休息するために用いられます。折りたたみ式のものが多く、持ち運びが容易で、屋内外を問わず活用されます。木製でシンプルな造りが基本ですが、座面に布を張ったものや、漆塗りの格式高いものもあります。特に野点では、赤い毛氈(もうせん)を敷いて設えることが多く、風情を添えます。茶席における空間演出の一部としても重要な役割を果たします。
❙点茶盤(てんちゃばん)❙
点茶盤は、裏千家の立礼(りゅうれい)点前に用いられる茶道具の一つで、畳の広間で椅子席の点前を行う際に使用されます。木製の長方形の盤に脚が付いた構造で、上に風炉や水指、杓立、建水、蓋置などの茶道具を配置します。格式の高い棚とされ、主に正式な茶会や立礼席での点前に用いられます。通常の立礼棚よりも格調があり、客人をもてなす場にふさわしい落ち着いた雰囲気を演出するために設計された茶道具です。
❙野点傘❙
野点の際に使用される大きな傘で、日除けや装飾の役割を果たします。赤いものが多く、茶席の雰囲気を一層引き立てるために用いられます。
❙茶道具 ~ 懐中道具 ~
懐中道具とは、茶席において携帯する道具の総称であり、茶道の所作を整え、茶席での作法を円滑にするために欠かせない品々です。帛紗や扇子、懐紙など、それぞれの道具には茶席での役割があり、正しい使い方を学ぶことで茶道の美しい所作が身につきます。これらの道具は、帛紗挟みや数寄屋袋などにまとめて携帯し、茶席に入る際に必要に応じて取り出して使用します。
ここでは、代表的な懐中道具についてご紹介します。
❙帛紗❙
点前の際に茶器を清めるためや、器物を拝見する際に下に敷くために使用される絹製の布です。「服紗」「服茶」「袱紗」「幅紗」とも書きます。流派や点前の種類により色や使い方が異なります。
❙扇子❙
茶席で使用する扇子は一般のものより小ぶりで、表千家・裏千家、男性用・女性用でサイズが異なります。茶席では挨拶の際や道具の拝見時に膝前に置きます。実際に扇ぐためのものではなく、格式を示すために用いられます。
❙懐紙❙
和紙で作られた茶席用の紙で、菓子をのせたり、指を拭ったり、茶碗の飲み口を清めるために使用されます。食べきれない菓子を包んで持ち帰る際にも利用され、懐や帛紗挟みに携帯します。
❙黒文字❙
主菓子をいただく際に使用する楊枝のことを指します。クスノキ科のクロモジ(黒文字)の枝を削って作られ、香りが良く、手触りが優しいのが特徴です。
❙帛紗挟/懐紙入❙
「懐紙入」とも呼ばれ、懐紙、菓子楊枝、小茶巾などの小物をまとめて入れて持ち歩くための袋です。男性用は大ぶりで寒色系、女性用は小ぶりで暖色系のものが一般的です。
❙残肴入❙
懐石料理の食べ残しを入れて持ち帰るための折り畳み式の箱です。茶事の礼法として、懐石のもてなしを大切にする文化が表れています。
❙数寄屋袋❙
茶席で必要な帛紗や懐紙、扇子、菓子楊枝などをまとめて入れるための袋です。茶道の携行品を美しく収納し、茶席での所作を整える役割を果たします。
❙茶道具 ~ 消耗品 ~
茶道において、点前を行う際に用いる消耗品が数多く存在します。
これらの道具は、一度の茶会や稽古で使い切るもの、あるいは一定期間で交換が必要なものがあり、適切に管理することが求められます。
以下に、代表的な消耗品について解説します。
❙茶筌/茶筅❙
茶筅は、濃茶を練ったり薄茶を点てるための竹製の道具で、消耗品のひとつとされています。長く使用すると穂先が摩耗し、竹が割れたり曲がったりするため、適切な時期に新しいものと交換します。
素材には白竹、煤竹、青竹があり、穂先には八十本立、百本立、百二十本立など、それぞれ異なる風合いや使い心地があります。
❙柄杓❙
湯や水を汲み取るための柄のついた竹製の道具です。長期間使用すると竹が乾燥して割れやすくなるため、定期的な点検と交換が必要です。柄杓の形には「月形」と「指通」があり、「月形」には炉用と風炉用があり、それぞれの季節や茶会の形式に応じて使い分けられます。
❙炭❙
炭は、釜の湯を沸かすために不可欠な燃料であり、茶会ごとに適切な形状や組み方が求められます。茶道で使用される炭は、流派ごとに定められたものがあり、組み方も異なります。炉用と風炉用に分けられ、炉用は風炉用よりも大ぶりとなっています。原木は主にクヌギ、コナラ、ミズナラが使用され、火持ちの良さや適切な燃焼温度が求められます。